「Firefox 開発停止」の誤解

Firefoxのシェアについての話を追記した。
Mozilla Fluxも書いてた
Firefoxの延長サポート案へのリンクを脚注に追加した。
Firefox with Bingの話を脚注として追加した。



書きあがって公開する頃には Mozilla Flux あたりがこれよりもマトモでわかりやすい反論記事書いてくれてるはずなんだけど、とりあえず書く。

以下のような記事が注目を集めている。

で、これらに加えてどこかの2chまとめブログとかが「Firefox 開発停止!」みたいな見出しつけて編集したものだから、Twitter を「Firefox 開発 停止」で検索すると、デマに引っかかった人が結構いる。
大元のZDNetの記事からして「事実を元にネガティブな筋書きを組み立てるとこうなる!」みたいな内容だし、「ZDNetのライターは過去にも『Firefoxは生き残れない』な内容の記事を書いていた」みたいな話も出てるけれども、そこらへんまで突っ込んでいくとキリがないので、とりあえずTechwaveの記事で言及されている点についての事実だけを挙げる。

以下、個人的な見解を含む反論を述べる。
まず、「Googleとの契約が終了する」と財務諸表で述べられていた事実であるけれども、その契約がその後どうなったのかについてのアナウンスは現時点でMozillaからは出ていない。そもそも今年の11月を目処にした契約であるならば現在も交渉中であっても不思議ではないし、そんな交渉中の内容について取材されたからと言ってMozillaがホイホイ明かせるものではないだろう。
Google検索のレベニュー契約って別にFirefoxに限らず、検索ボックスを持っているどのブラウザでも、そこから検索した際のURL内に特定のパラメーターを持っていれば、ある程度のレベニュー契約を結んでいるはず。そのことからも、Firefoxのシェアの低下やGoogle Chromeのシェア増加を理由に額を減ることはあれども、まったくの契約の終了ということもないとも考えていいだろう。また仮にGoogleとの契約が継続されなかったとしても、Bingを有するMicrosoftとのレベニュー契約にならないとも限らない*1
Googleとのレベニュー契約が一度終了したからと言って、即時に「Firefox開発停止!」みたいなのは論理の飛躍が過ぎる。

Mike Shaverが辞めたことについても今更感が漂うというか、別に重要な人が辞めるのは今に始まったことじゃなく、2005年にはBen Goodger(Firefoxに初期から関わっていた)がGoogleに移って今ではGoogle ChromeのUI開発してるし、Firebugの作者であるJoe Hewittも今はMozillaにいないし、今年にはProduct DirectorだったMike Beltznerが辞めている。
こうして有名な人が辞めている話ばかりすると落ち目のように見えるけれども、もちろんそれなりに新しい人もMozilla Corporationに雇われてるはずなので、Googleとの契約が問題で人材流出してるような意見は見当違いと考えるべきだと思ってる。このあたりの人の出入りが激しいのは、向こうのエンジニアの就職事情的なものなのかもしれない*2

上にあげたStatCounterの調査を参照すると、シェアが減少傾向にあるのはFirefoxに限らずIEも同様である。減少したIEとFirefoxのユーザーのうち、どこがGoogle Chromeに乗り換えているのかを注意してみなければならない。
つまり「どのユーザーが乗り換えているのか」は全体から視てとらなければいけないのであり、個々の事例の変動だけをピックアップして視たからといって、その2つが直接的に関係しているとは言えない。
「最近、Firefoxのシェアが減少していて、Google Chromeのシェアが増加している」というのは事実なのだけれども、これだけではこの2つに相関関係があるものとして語ることはできない。

あと、「最近のFirefoxはリリースサイクル速め過ぎて迷走してる」という意見については、色々反論したいことあるのでここで書いておく。
Mozillaが高速リリース(Rapid Release)を採用した理由については、マーケティング的な面が皆無とは言わないけれども、一番の理由はFirefoxのリリース間隔が長期化することによって、新しいWeb技術が実際に使えるようになるまでに時間がかかるようになってしまうという、いわば「IE6ゾンビ化」の問題の回避という意味合いが強いと考えるべきだろう。事実、Mozillaもそのようにアナウンスしている*3し、時代の要請的な面もあったともいえるかもしれない。
スケジュール通りにリリースを行えばいいので、リリースを止めているバグの影響が減ったり、リスクのある変更でリリーススケジュールに間に合わないものは単純に先送りされる。それによりベータ版やアルファ版の品質が一定に保たれるといった、開発上のメリットも結構あるだろうけど。
ただ、この高速リリースサイクルについてまずかった点もある。
1つには法人向けの長期サポートや、アドオンの互換性の問題が万全とは言えない状況でリリースサイクルが変更されてしまったこと。現時点では、延長サポート版のFirefoxについては既に計画が大方出来上がっていて、Firefox 10から実施されることになっている*4し、アドオンの互換性についても、Firefox 10からは本体側で自動的に互換性があるものとして扱われるようになる予定ではある*5
しかし、本来であれば高速リリースサイクルを導入したFirefox 5の時点で、長期リリースサイクルは骨子が出来上がっているべきだったし、本体側でのアドオンの互換性の確認も自動的に有効になるようにするべきではあった*6
もう1つには、ユーザーとの合意が完全に形成されないままに、高速リリースサイクルへ突入してしまったこと。一応 Mozilla高速リリースサイクルに移る理由はアナウンスしているけれども、十分なものだとは言えないと思う。それ故に高速リリースサイクル採用に対する誤解が発生しているわけであるし、延長サポートの導入時に改めて、高速リリースサイクルと延長リリースサイクルについてアナウンスするべきなんじゃないだろうか。

とりあえず個々のデマに対して反論しておきたいことはこのあたり。
あと、Techwaveの記事は、蛇足の欄で勝手にオープンソースを終了させているんだけども、どうしてそこまで論理が飛躍するんだろうね。たぶん他のOSS界隈の人が反論してる個所だと思うけど。

*1:なお、現時点でも、Mozillaは、デフォルトの検索エンジンをBingにしたバージョンのFirefoxを提供している( Firefox with Bing )。

*2:ちなみにMike Shaverは「ボランティアとしてMozilaにはかかわっていく」的なことを述べている http://shaver.off.net/diary/2011/11/02/why-facebook/

*3:高速リリースサイクルに関するよくある質問 | 次世代ブラウザ Firefox

*4:Enterprise/Firefox/ExtendedSupport:Proposal - MozillaWiki

*5:Firefox 10 for developers - MDN とか Features/Add-ons/Add-ons Default to Compatible - MozillaWiki とか参照

*6:Firefox 5 以降、現時点で採られているアドオン互換性を自動的に有効にする処理は、[https://addons.mozilla.org/:title=AMO]から対応情報を取得することでアドオンを互換性のあるものとするものである。そのためFirefoxのアップデート時などに、ユーザーのPCにインストールされているアドオンの実体ファイル内の互換情報を元にした互換性の確認処理が行われてしまい、AMO上では対応している(互換性のある)アドオンが一時的に無効になってしまい、ユーザーの混乱を招くことがあった。